スロウハイツの神様 【読書感想】
今週のお題「読書の秋」
辻村作品のマップでは、最初に読むのが良いとされている『スロウハイツ』の神様。やっと読むことができました!上下巻に分かれているかなり分厚い作品ですが、ページをめくる手が止まらなかったです。
そのため、忘れないうちに感想を書いておこうと思います。ネタバレは極力避けますが、気になる方は読了後に読んでいただけたら嬉しいです。
[目次]
- あらすじ
- チヨダコーキの魅力
- 環の秘密
- おわりに
あらすじ
二十代半ばにして成功を収めた脚本家、赤羽環は友人たちにある提案を持ち掛ける。その内容は「環が所有するアパートで同居しないか?」というもの。集まってきたのは、環と気心の知れたクリエイターの卵たち。
漫画家を目指す、エンヤと狩野。映画監督の卵である正義。才能があるけれどガッツに欠ける、画家志望のスー。この中でクリエイターとして成功しているのは環だけだと思っているみんなだけれど、実は環以上の超大物も住んでいて…!?というお話。
辻村さんの作品らしく、ミステリー要素もありますが、なかなか成功を手にできない1人1人の問題と、成功者である環の関係性が丁寧に描かれています。そのため、ヒューマンストーリーとしても楽しめる作品です。
チヨダコーキの魅力
みんなのアパート、スロウハイツに住む一番の大物は作家のチヨダコーキ(コウちゃん)。中高生に特に人気があり、スロウハイツのメンバーも尊敬する作家さんです。
身体は大きく、三十代の人気作家なのに、どこまでも謙虚でピュアなコウちゃん。
彼の作品に影響を受けた青年が悲惨な事件を起こしてしまったとき、彼は「自分の作品がそれほどまでに読者に影響を与えることができたならば、それはある意味光栄なことだ」と答えます。そんなコウちゃんに対し、批判が殺到し、彼は一時休業したという経験を持っています。世間体を繕うことも、曖昧にごまかすこともできるはずなのに、絶対にそれをしないコウちゃん。
シビアな世界を生き抜くために、人間は少なからず嘘をついたり、ごまかしたりするものです。それは悪いことではないと思います。でも、だからこそ、どこまでも真っ直ぐな人にわたしたちは魅力を感じるのかもしれませんね。
そして、ある少女のために彼は執筆を再開することになりました。ネタバレになるので、詳細は控えますが、すべての真相が分かったとき、涙が零れそうになりました。たとえ、伝わらなくても、触れることができなくとも、コウちゃんは大きな優しさと愛でその子を救い続けたのです。
世の中には、伝えることができない愛も、伝えない方がいい愛も存在します。「愛を伝える」という行為は、両想いでない限り、自己満足になってしまうからです。だから、愛を伝えずに、そっと見守り続けるコウちゃんの姿は人として格好良いと思いました。
環の秘密
実績を残していることを理由に、高飛車に、強い態度で振舞い続ける環。彼女の言動からは「自分の美学を絶対に曲げない」という強い意志が感じられます。
始めは彼女の勝気な言動が少し苦手でした。しかし、その美学の正体が分かった時、温かい気持ちになりました。
わたしは、ずっと強い人になりたいと思ってきました。そして強いとは、「どんな状況でも、1人で自分の足で立っていられること」だと思っていました。でも、環を見ていると、誰かの存在を支えに生きることは毅いのだなと感じました。
おわりに
『スロウハイツの神様』を読んで思ったのは、自分のためだけでもなく、誰かのためだけでもない、そんな強い人になりたいな、ということ。
素敵な作品なので、秋の夜長や冬ごもりのお供にしてみてくださいね。
2018/11/17 紅葉